37万人から116億円をだまし取った「サクラサイト」業者の摘発から3年。終結したかと思われた捜査には続きがあった。警視庁は9月、摘発されたサイト運営会社の上位組織とみられる、ソフトウエア開発会社の幹部を逮捕した。水面下で売り上げを吸い上げていたとみられている。こうした運営主体と母体を切り分ける悪質業者は少なくないが、関与を示す証拠集めは困難になることが一般的だ。今回も裏付け捜査に長い時間を要したが、捜査員らは手を緩めなかった。
■「糸たぐるよう」執念の捜査
サイバー犯罪対策課が9月に詐欺容疑で逮捕したのは、ソフトウエア開発「フリーワールド」(東京)専務の男(38)。平成25年に摘発した、出会い系サイト運営会社「ウイングネット」(同)の上位組織とみられる。
ウイングネットは、「AKB48」の元メンバー、前田敦子さんや、「嵐」のメンバーら芸能人を装ったサクラが、SNSを通じて「相談に乗って」などと持ちかけ、サイトに誘導。サイト内でのメッセージの送受信は1通ごとに有料だが、「連絡先を教える」などと期待を抱かせ、繰り返し利用させていた。ウイングネットは22サイトを運営し、22年2月~24年6月で116億円を売り上げたとされる。
捜査関係者によるとフリーワールドは、フェイスブックで芸能人のマネジャーを装い、ネット利用者にURLを書いたメッセージを送って、ウイングネットのサイトに誘導する役割を担っていたとみられる。
専務は、フリーワールドの人事や具体的な指示を行う社内ナンバー2。サイバー課は、ウイングネットの売り上げの一部がフリーワールドに流れていたとみて捜査を進めている。
警視庁は3年前に摘発したウイングネットと同時に、フリーワールドへの捜査も行っていた。しかし証拠集めが難航して一度は断念。告訴をうけて再び捜査に乗り出し、「細い糸をたぐるような捜査」(捜査幹部)を長期にわたって続けていた。昨年12月に逮捕状請求に漕ぎ着けると、今年8月、警察庁を通じて外務省が旅券返納命令を発布。観念したのか、海外に逃亡していた専務が、9月下旬に台湾から日本に帰国した。
■母体は雲隠れ
業界に詳しい関係者によると、もともとフリーワールドもサクラの疑いがある出会い系サイトを直接運営していたが、21年に東京国税局から法人税法違反(脱税)罪で告発されたことなどをきっかけに表立ってサイト運営ができなくなり、ウイングネットに引き継ぐかたちとなった。
フリーワールドは存続したが、水面下でウイングネットの売り上げの6~7割を受け取っていた可能性がある。業務では、昼夜交替制のサクラの、メッセージ内容の引き継ぎ会議を合同で開催。社員旅行や忘年会も、2社合同で行っていたという。
このように運営主体と母体を切り分ける業態は、いまやサクラサイト業界で一般的だが、先駆けとなったのがフリーワールドだったとの指摘もある。捜査の手が及びにくく摘発逃れに有効とわかると、こぞってほかの業者がまねをした。運営主体の評判がネット上で騒がれれば、新しい運営会社を立ち上げ、別のサイトを立ち上げればいいからだ。
「後ろに隠れていればいいという安心感が母体側にはある。この業態を許してしまったら、被害はいつまでもなくならない」と、サクラサイト被害対策弁護団の石渡幸子弁護士は危機感を募らせる。
■期待と同情のコラボ
サクラサイト商法は以前から続いている。芸能人や女性との出会い目的のほか、「金を渡したい」「運勢をみる」という文言で期待を持たせ、連絡を続けさせるケースもある。従来は業者のサイト内でメッセージを送受信する形態が多かったが、最近はスマートフォンのアプリ内でやりとりするタイプもあるという。
「基本的には半グレ(反社会勢力)の仕事」。サクラサイトの業界関係者はこう話す。
女性になりすますサクラは、「清(せい)楚(そ)」「病気がち」「父親が社長」などといった設定を頭の中に描いてユーザーとやりとりする。「かわいい女性かもしれない、助けてあげたい、逆玉の輿(こし)にのれるかもしれない-という、期待と同情のコラボレーションを引き出すのがコツ」と説明する。
「今は病気だけど治ったら会いたい」などと送って連絡を長続きさせ、平均2~3カ月、長くて1年だまし続ける。数百万円を支払ってしまうユーザーもいるという。クレジット・リース被害対策弁護団団長の瀬戸和宏弁護士は、「被害は依然高止まり。被害にあったらまずは消費生活センターに相談して」と呼びかけている。
捜査関係者は、「被害者も被害金額も多い悪質な事件」と断罪。証拠集めを続け、引き続き事件の全容解明を進める方針だ。
≪引用元:産経新聞≫
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161010-00000508-san-soci